まごころ介護のお役立ちコラム
MAGOCORO COLUMN
認知症は原因やタイプによって、その後の生活上の注意点や治療法が異なり、医師の診断が大切になります。今回は最前線の現場で専門医にお話を伺いました。
関西医科大学准教授 医学博士 吉村匡史氏インタビュー
吉村匡史
関西医科大学 精神神経科学講座。関西医科大学総合医療センター精神神経科に勤務。有料老人ホーム「ケアビレッジ千里・古江台」では、認知症専門医として、治療にあたるほか、スタッフへ必要な対応方法をアドバイスするなどしている。
関西医科大学 准教授 医学博士
今のところ、認知症の根本的治療法はなく、その進行を少しでも抑える薬を服用することしかできません。
現在、医師が処方できる認知症の薬には数種類あり、患者さんによって効く薬も異なります。
副作用の出方も人によってばらつきがありますね。数種類ある薬剤の中でどの薬が特に優れていると
いうこともありません。どの薬剤も主な効果は認知症の進行を遅らせることですが、優劣がつけがたいということです。
ただ、各薬剤にはそれぞれ特徴があります。例えば、精神状態や行動を活性化する傾向を持つ薬剤もあれば、おだやかにする方向に働く薬剤もあります。また、薬剤の形状でいえば、飲み薬だけでなく毎日貼りかえる貼り薬もあります。そのため、意欲が乏しくなった患者さんには活性化傾向を持つ薬剤を、怒りっぽい患者さんにはおだやかにする薬剤を、また、飲み薬が増えることを好まない患者さんには貼り薬を選ぶ、などの使い分けをすることがあります。
ただし、薬剤は万能ではありません。進行をゆるやかにするには、薬さえ飲んでいればいいかというとそんなことはないのです。認知機能や精神状態には体の状態がダイレクトに反映されるので、体の調子を整えるということも、とても大切なんです。
■アルツハイマー型認知症の初期兆候
方向感覚を失う・慣れた道で迷う
以前よりも服装がだらしがなくなった
簡単な料理しか作れなくなる・味覚に変化が起きる
同じことを何度も言う
元気がない・やる気がなくなる
電話をすませた後で元の会話が思い出せない
それは全くその通りです。早期発見のメリットは2つあります。
1 つ目は早めに気がつくことで、周りの方が介護のための準備を整えることができること。迅速に介護
認定の申請や介護サービスの導入ができ、それらを行う中で介護する方も徐々に心の準備ができます。
2つ目は、進行を少しでも食い止めることができること。例えば、親御さんが何度も同じことを家族に聞くようになったとします。その際、ご家族が「何度同じことを聞くの!」と怒ったりする。そうすると、ご本人は萎縮したり、落ち込んでしまいます。人によっては、逆に攻撃的になったり、イライラしたりする場合もあります。これが非常によくないことなのです。
怒られるだけで進むわけではありませんが、進行の促進因子にはなり得ます。日々の生活が苦痛になり、精神的に落ち込みます。認知機能や精神状態は、そうしたストレスから悪影響を受けてしまうのです。周囲が早く認知症と気づくことで、適切な対応を早く取れるようになる可能性があります。
そうですね。ご家族にはご家族の暮らしがあるし、自分の親がまさか、というお気持ちもわかります。
まず親御さんにかかりつけの医師がおられるかどうかを確かめましょう。
もし、はっきり認知症だとわかって、専門医にかかるとしても、最初はご近所のかかりつけ医を通じてご紹介いただくことになります。その際、これまでの病歴、どんな薬を飲んできたか、どのような性格の方かなどの詳細な情報がわかっていれば治療もスムーズです。
それから、先にも申し上げたように、体調を整えることが非常に大切です。ですから、すでに何かの病気を抱えておられたら、しっかり治療に専念して、健康な体を維持できるようサポートすることが重要になります。認知症に移行するリスクを抑えるには、健康的な生活を心がけ、生活習慣病にかからない、もしくは生活習慣病を悪化させないことが一番なのです。
「もしかして認知症かも?」と思ったら、家族としては病院を受診しなければと考えるかもしれません。
その際、どの診療科を受診したらよいか迷いますよね。老化現象によるものなのか、病気が原因なのかを診断し治療するために、精神科や神経内科、脳外科などの病気に関連した心療科や老年科を訪ねる場合もあります。
しかし、初期の段階であれば「物忘れ外来」をおすすめします。「一般外来」と「物忘れ外来」との違いは、診療医師の違いです。「物忘れ外来」を担当する医師の多くは、日本老年精神医学会や日本認知症学会で専門医資格を修得した医師です。まさに、認知症に特化した専門医です。
病院によってその内容に多少差がありますが、基本的に以下のような流れとなります。
予約が必要となるので注意しましょう。
問診
体調や症状、家族構成、既住歴、定期的に服用している薬の有無などについて質問します。
この時家族の付き添いが必要となります。患者本人が質問に答えられない場合、代わりに説明していただきます。直近の容態、そして生活習慣や行動について医師の質問に答えられるよう、付き添う家族はしっかりと把握しておきましょう。
また、本人がいつも通りリラックスした状態で問診にのぞめるかも重要なポイントとなります。慣れない医師の前で張り切ってしまい、普段より元気に振舞う高齢者もいれば、逆に緊張してしまい、うまく言葉にできない高齢者もいます。
神経心理学検査
知的機能、認知機能、記憶、実行機能を確認するために詳細なテストを行います。プライバシーが確保された静かな部屋で、臨床心理士と患者との1対1で行われます。所要時間は、約1時間程度です。
画像診断
MRIによる脳の画像診断を行います。同時に、血液検査、胸部レントゲン、脳は測定なども行います。
再来院
以上の診断と検査結果を踏まえて、認知症または認知症の疑いのある人は、今後の治療法などについて説明があります。
診察では、以下のような項目を家族がメモとして作成しておくと、本人の症状が医師によく伝わりますので渡せるように準備しましょう。
症状はどのようなもので、いつから始まったのか
症状が出始めたきっかけ、病気や事故などがあったか
これまでにかかったことのある病気や治療中の情報
服用中の薬について、何をいつから服用しているか
その他、気がかりなこと
今回は専門家のお話と物忘れ外来についてご紹介いたしました。
専門家のお話にもありましたように、認知症には早期発見が大切になります。
原因を探るため、検査に様々な診療科が関わる可能性がありますが、
まず、物忘れ外来を受診することをおすすめします。
また、受診の際には患者本人だけでなくご家族の付き添いも必要です。
情報を整理して、医師に伝えられるようしっかり準備しておきましょう。
監修
橋本珠美
2001年4月、株式会社ユメコムを起ち上げ、介護・福祉の法人マーケットを中心に、誰もが高齢社会を安心して過ごすためのコンサルティングを始める。
また「高齢者と高齢者を抱える現役世代」のための相談窓口「シニアサポートデスク」「ワーク&ケアヘルプライン」を運営し、高齢者やそのご家族の幅広いお悩み(介護・相続・すまいなど)にお応えしている。
相談窓口の事例と自身の経験(ダブルケア)を取り入れたセミナー活動は好評を得ている。
株式会社ユメコム(https://www.yumecom.com)
公開日:2021年10月28日 更新日:2022年10月25日
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