まごころ介護のお役立ちコラム

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~知らないと損をする?~ 家族信託

家族信託

もし、あなたが認知症になった場合、誰があなたの財産を守るのでしょうか?
現在の日本は「超高齢社会」となっており、老後が長期化することによる認知症のリスクが高まり、判断能力が低下すると本人名義の財産を柔軟に活用できなくなることが大きな社会問題になっています。
そうした背景をふまえ、今回は不動産や預貯金などの管理を家族に託すことができる家族信託についてご紹介いたします。

家族信託とは?

肉親間の契約

2007年に改正信託法が施行されて以降、高齢者の資産管理やスムーズな継承のために「家族信託」を活用する動きが広がっています。「家族信託」とは、財産の所有者(委託者)が、子どもなどの信頼できる家族・親族(受託者)に、不動産や預貯金などの財産管理を任せる契約のことです。「民事信託」が正式な名称です。親が決めた目的に沿って、子どもが財産を管理・処分し、親のために使用するのが典型例です。
家族それぞれの実情に合わせて柔軟に対応しやすいため、「家族信託」が今注目されています。

「家族信託」はどこまで財産管理できる?他の制度との違い

家族信託

親などの生前に、財産の所有権を移して管理してもらい、契約締結後30年以上にわたる財産の管理方法や帰属先などを決めることができる。
成年後見制度と異なり、家庭裁判所の関与がないことから「柔軟性」や「幅広い選択肢」がメリット。

後見制度

後見人が、生活環境と財産をしっかり守ってくれるが、
被後見人が亡くなると後見人の仕事は、原則終了となる。

遺言書

自分の遺産を誰にどのように相続または遺贈するかを
自分の意思通りに決められる一方、その効果は1回限りで、「次の次」までは決められない。
また、あくまで遺言者が亡くなった後の話。

「家族信託」が注目されている理由

注目される家族信託

例えば、親が認知症になり、施設費や介護・医療費が必要な場合でも、本人以外の者が親の預貯金の引き出し、そして年金収入や預貯金だけでは足りなくても、親名義の不動産を売却することはできません。
そのため、その後の親の介護費等は、介護者である子が金銭的な負担を強いられることになります。そうしたことから、いま、家族信託が注目されているのです。

認知症発症後にできなくなること

  • 遺言書の作成(軽度の認知症は除く)

  • 契約の締結

  • 遺産分割協議

  • 相続の承認もしくは放棄

  • 預金の引き出し

  • 新築・改築・増築または大規模修繕など

「家族信託」契約をしておけば、信託財産は受託者名義となるため、本人(委託者)が認知症などで判断能力を失ってしまったとしても、受託者が所有者として法律上の正当な権限をもって、引き続き運用や売却などの手続きを行うことが可能になります。

手続きの流れ

家族信託の手続きの流れをご紹介しましょう。

1.家族間で家族信託について話し合います。
2.話し合いの結果を踏まえて、以下を決めます。

 ・信託の内容
 ・委託者、受託者、受益者
 ・信託する財産
 ・信託終了の方法と、終了後の財産の帰属者
 ・その他信託を行う上で必要な事項

3.上記に基づき、家族信託契約書の案を作成します。
4.公証人役場で家族信託契約書を公正証書化します。
5.信託財産を受託者に名義変更します。
6.契約に基づき信託口口座を開設します。

家族間の十分な話し合いが必要です。
後でトラブルとならないよう、しっかりと思いを共有することが重要です。
後々「失敗した!」ということがないよう、家族信託の経験が豊富な専門家に相談することをおすすめします。

家族信託のメリット

親が認知症になる前に財産の管理が行える

家族信託は親が認知症になった場合に備えて、今の段階から財産管理を任せられる点がメリットといえるでしょう。親の判断能力があるうちに子が財産管理を行うことで、親の希望通りに管理されているか親自身がチェックできるので将来の不安を少しでも減らすことができます。

家族信託は財産の名義を子に変えるため、子は信託財産の所有者として財産管理を行うことができます。家族信託を結んでおくと、たとえ財産を託した親が認知症になった場合も、親の資産を契約の内容に基づき、柔軟に管理処分することが保証されます。

認知症の方の財産管理の方法として、後見人制度も挙げられますが、後見人制度は裁判所の許可が必要になります。
そのため家族信託に比べると柔軟性が低いというデメリットがあります。

次世代への財産の承継、事業承継を決定できる

家族信託は、自分の財産を2代先、3代先と数代にわたって受益者を指定できるため先を見据えた対策ができます。

例)
Sさんが「財産aは長女Aに譲るがAが亡くなったら長男Cに譲る」と決めたとしても、
一般的な相続であれば、長女Aが亡くなったら財産aは孫Bに受け継がれるなど、Sさんが長女Aの先を決めることはできません。
しかし家族信託では2次指定ができるため、「長女Aが亡くなったら、財産aは息子Cに譲る」という指定が可能です。

相続の指定は遺言でも可能ですが、指定できるのは1代までとなっております。
2次指定は、先祖代々受け継がれた土地を守りたい場合などに有効です。
家族信託は遺言よりも、財産の保有者の意思を反映した承継が可能になります。

管理に費用がかからない

成年後見制度では、後見人には司法書士や弁護士などの専門家が就任し、後見業務を行うための費用が毎月約2~6万円発生します。
この報酬額は家庭裁判所が決めた報酬額を払うルールになっており、一生涯支払い続けることになります。
しかし、家族信託は、契約時に専門家が関わる場合、報酬が必要となり、公証役場で公正証書を作成する際の費用が発生しますが、月々の報酬は契約で定めるので無酬にすることができます。

自己破産の影響を受けない

家族信託で受託された財産は、受託者が破産しても影響を受けません。
具体的には、受託者の自己破産による没収を避けることができます。なぜなら、家族信託での財産はあくまで受託者に「預けたもの」と認識されるからです。名義人は受託者になりますが、あくまで「預かりもの」であるため受託者個人の財産にはカウントされません。

不動産に関するトラブルを防止できる

主に、不動産に関するトラブルを防止することができます。
家族信託では、財産の管理をする受託者と、利益を受け取る受益者を分けて指定します。

不動産を2人の兄弟に相続させた場合、その不動産の処遇には相続人全員の賛同が必要になります。
例えば、兄が不動産を売却したいと思っても、弟が反対すれば売却することはできなくなり、そこでトラブルに発展する可能性があります。

しかし、家族信託で受託者を兄、受益者を2人の兄弟に指定しておけば、
不動産の管理を行うのは兄ひとりになりますので、兄ひとりの判断で売却ができ、トラブルを防ぐことができます。
また、受益者は兄弟2人ですので利益は等分することができます。

家族信託のデメリット

認知症を発症した後では利用できない

家族信託は委託者と受託者の合意の下で行われる契約であるため、委託者が認知症を発症した後の契約行為はできません。
家族信託を利用したい場合は、認知症になる前に手続きを済ませる必要があります。
ただし、認知症のレベルによっては「判断能力あり」と判定される場合もあるため、家族信託を利用できる場合もあります。

もし、認知症を発症してしまっている場合は、「成年後見制度」を利用する必要があります。

専門家が少ない

家族信託は民事信託をベースとしており、2007年9月からスタートした信託の仕組みで、比較的新しい制度になっています。
そのため、家族信託の専門家は、全国的に見ても非常に数が少ないです。
専門家を探すのに時間がかかれば、その間に認知症を発症してしまい、家族信託が利用できなくなる可能性もあります。
家族信託の手続きは、本人や家族が自力で行うこともできますが、経験豊富な専門家に任せるほうが円滑に進むでしょう。

成年後見でないとできないことがある

家族信託によって受託者は身上監護権をもちません。
ですので、家族信託によって身上監護を考えるのであれば、不十分どころかできません。ただ、「受託者=子」ということが多いので、「受託者」としてではなく「子」として親の代わりに契約をするという形での対応になります。

認知症だった場合はどうしたらいいの?

家族信託の利用を考えたとき、家族の状態を見て認知症を疑う場合もあるでしょう。家族信託では、本人の判断能力が必要になってくるため、まずは専門家の診断が必要になります。症状の進行次第では、家族信託の利用もできますので、「認知症かな?」と疑う場合は、次のように対処しましょう。

認知症のレベルを判定

認知症にも軽度から重症のレベルがあります。以下の症状がみられる場合は契約行為に支障をきたす可能性がありますので確認しましょう。

・同じ話や質問を繰り返し何度もする。
・直前の会話内容や銀行口座の暗証番号を忘れる。
・簡単な計算やスケジュール管理ができない。

ただし、医師から認知症の診断があったとしても契約行為ができるかどうか判断するのは公証人になります。

公証人にチェックしてもらう

認知障害のレベルによっては契約行為も可能です。公証人が以下の項目から理解力や判断力をチェックします。

・自分の名前や生年月日、住所が言えるか
・署名できるか(身体的な障がいは除く)
・大まかな契約内容や仕組み、メリット・デメリットを理解できるか
・どの財産を誰に託すのか理解しているか

公証人が「契約内容を理解している」と判断すれば、家族信託の利用も可能です。

認知症発症後は法定後見制度を利用しよう

すでに判断能力が不十分であると判断された場合、法定後見制度の利用が一般的です。

後見人は家庭裁判所によって選ばれます。業務範囲は被後見人の「財産管理」や「身上監護」で、財産保全を目的としています。
身上監護とは、本人の生活や療養の手配のことで「病院や介護施設への入所手続き」などが当たります。認知症の方は、法定後見制度を利用することで後見人による日常生活や介護の支援が保証されます。しかし、法定後見制度による財産管理は、原則として裁判所の許可のもと行う必要があります。そのため、本人が不動産を売却したいと思った場合でも、裁判所が許可を出さなければ不動産の売却はできません。被後見人の財産を「守る」ことが目的なので、財産を柔軟に活用できなくなるデメリットがあります。

また、後見人には毎月の報酬を支払う必要がありますので、利用が長期化するほどかかる費用も多くなるでしょう。

おわりに

今回は家族信託についてご紹介いたしました。
認知症を発症してからでは相続対策が難しくなってしまいます。
そのため、柔軟に対応可能な家族信託が今注目されています。
信頼できる家族に財産を管理してもらえるのなら安心ですよね。
認知症を発症する前の準備が大切ですので、ご家族と相談してみてはいかがでしょうか?

監修

川原田慶太司法書士

川原田慶太 司法書士

1976年生、京大法卒。東京・大阪を中心に、シニア向けに成年後見や家族信託、遺言などの法務を軸とした財産管理業務専門チームを結成。現在、延べ1000名の方々との財産管理顧問として業務を展開。
日本経済新聞電子版にて「司法書士が見た相続トラブル百科」を長期連載他、TV(情報ライブ「ミヤネ屋」、グッドモーニングなど)出演。金融機関を中心に相続セミナー講師を多数歴任し、著書に『司法書士は見た実録相続トラブル』(日経出版)がある。

司法書士法人ゆずりは後見センター(https://yuzuriha-kouken.jp/)

橋本珠美

橋本珠美

2001年4月、株式会社ユメコムを起ち上げ、介護・福祉の法人マーケットを中心に、誰もが高齢社会を安心して過ごすためのコンサルティングを始める。
また「高齢者と高齢者を抱える現役世代」のための相談窓口「シニアサポートデスク」「ワーク&ケアヘルプライン」を運営し、高齢者やそのご家族の幅広いお悩み(介護・相続・すまいなど)にお応えしている。
相談窓口の事例と自身の経験(ダブルケア)を取り入れたセミナー活動は好評を得ている。

株式会社ユメコム(https://www.yumecom.com)

公開日:2021年8月24日 更新日:2023年1月24日

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